「雑草害~誰も気づいていない身近な環境問題~」を読む

雑草の本

大学院のときにお世話になった宇都宮大学の小笠原先生が2021年7月に本を出されました。
小笠原勝著「雑草害~誰も気づいていない身近な環境問題~」、幻冬舎ルネッサンス新書です。
大学を訪れた際に1冊頂いたので早速、読んでみました。

タイトルが「雑草害」と、非常にストレートなものになっています。
最近、書店の植物コーナーで見かける雑草関係の本とはちょっと違う印象です。

大雑把にいうと、雑草あるある、雑草を主題にしたエッセイ、雑草の花を中心にした写真集など雑草を好意的に捉えている本が多く、雑草を愛すべき存在として書かれている気がします。

もちろん、それは雑草の一面なのですが、またある一面では、人間にとって非常に厄介な存在でもあります。そこで本書の出番となります。新書という形式の中に、どう厄介なのか、雑草と社会との関係は、雑草管理の在り方は‥などがぎゅっと詰まっています。

詳細は、本書を読んでもらうとして、大枠を紹介したいと思います。

本書の構成

本書は、以下の構成になります。

■はじめに
■第1章:雑草の基礎知識(定義、特徴、雑草の活用)
■第2章:雑草の管理(遺伝子組み換え、アイガモ農法、農薬など)
■第3章:雑草害(農業、河川、道路、芝生、中山間地における雑草害)
■第4章:雑草対策と地域振興(雑草管理のこれから)

※「雑草害」の目次を要約

第1章について

雑草本の定番と言えるかもしれませんが、雑草という言葉の由来、定義が書かれています。
雑草を扱っていると、案外、この定義に悩まされることがあります。

元素や物理の法則と異なり、雑草の定義が非常に曖昧で、かつ複数あるために、どの考えを採るのが妥当なのかという悩みです。結論を言えば、これという明確な正解はありません。ひとつ言えるのは、人間の都合で定義付けられた植物群ということでしょうか。

本書でも、もはやおなじみ?の昭和天皇による「雑草という植物はない」から、エマーソンの「雑草とは何か?それはその美点がまだ発見されていない植物」という定義まで様々な考え方が紹介されています。

興味深かったのは、「雑草」という言葉がいつ頃から使われ始めたかということで、江戸時代は「草」と表現されていたようです。明治初期にweedという英語を訳した際に「雑草」という言葉が使われ現在に至るとのことでした。つまり、雑草という言葉の歴史は、130年前後となります。

雑草の活用については、大学院時代に研究した内容が紹介されていました。
土壌中のカドミウムを雑草に吸収させて除去するというもので、ファイトレメディエーション(ファイト:植物、レメディエーション:修復)と呼ばれています。

第2章について

遺伝子組み換え、機械、生物的防除などが紹介されていますが、本書の特徴は除草剤に触れている点にあると思います。農薬の専門書はありますが、化学式などが中心で、結構難解な内容なので、こちらの章で触れてみるといいと思います。

最近では、除草剤を使用するというだけで、中身を問わず反対の声が聞こえてきますが、様々な考えを知った上で建設的な議論ができればいいなと感じています。

本書では、除草剤に抵抗がある理由として、雑草が枯れる作用機構がよく分からないから、実害の無い人(実際に除草に関わっていない)が多いせいではないかと推測しています。

もちろん、全てを知った上での反対・賛成はそれぞれの考え方次第となります。
そして、毎年生えてくる雑草があり、それと向き合わざるを得ない人々(当事者)がいるという現実をどう考えるかも大事なことだと思います。

第3章について

本書のタイトルでもある雑草害を農業、河川堤防など具体的な場面から触れています。

農業ー雑草では、作物の減収、それに伴う損失金額が紹介されています。大まかな推測ですが、雑草対策を全く行わない場合、1兆8548億円程度の損失が見込まれるとのことです。

また、近年はイノシシなどの獣害が問題となっていますが、こちらも雑草管理と非常に密接しています。獣害の対策にはよく電気柵が使用されるのですが、電気柵が雑草に触れると上手く機能しません。さらに、柵の周辺の雑草を管理する必要があります(動物の隠れ家、通り道となるため)。

その他、河川や道路など人間の生活と密接な関係にある空間には、雑草問題が必ず潜んでいるようです。

第4章について-雑草管理に費やす時間

「普段、日本人はどの程度、雑草に関わっているのか?」‥と聞かれたとき、参考となる資料が見当たりませんでしたが、本書では、9世帯31名の調査結果が掲載されています。

ちなみに、31名が2018年5月、除草に費やした時間は526.5時間だったそうです。1人あたり、1か月におよそ17時間を除草に割いている計算になります。もちろん、地域や居住地によって変動はしますが、結構な時間を除草に費やしている印象を受けました。

自分事として考えてみても、確かに6月や7月は除草に割く時間は非常に多いです。
最近、宮城の農家さんのお手伝いをしているのですが、2021年7月13日~17日の記録をたどると、ほぼ毎日除草作業でした。

話がすこしそれましたが、本書では、雑草管理の場所(農地、道路・河川など)、手段(鎌、除草剤など)ごとに除草に費やした時間が整理されているので、とても貴重なデータだと思います。

第4章について-雑草管理×地域×未来

雑草を単に管理するだけでなく、地域課題の解決手段の1つとして位置付けることができないかという視点が非常に面白いところだと思います。

実は、『雑草計画』というこのサイトを立ち上げたきっかけになった視点です。
本書ができる前から先生に直接伺っていたので、自分なりに考えることがありました。どう考えたかは、このサイトの「はじめに」や「アドバイザー」などに反映されています。

地方の雑草はかなり切実な状況です。

例えば、宮城のある地域では、平均年齢・70代の方々が地域の道路や河川の雑草を定期的に刈っている状態です。このような管理手法は、頑張ってあと5年程度ではないでしょうか。管理の担い手が減ることはあっても、増える画が描かれていないのが実情です。

雑草管理の未来はどうなるのか?

本書でも、まだ模索段階ですが、誰でも知っている雑草だからこそできることがたくさんありそうです。本章は、これを考えるきっかけになるのではないでしょうか。きっと、明るい未来があるはずです。

さいごに

ありがたいことに、本書ができる前段階で、著者である小笠原先生と雑草について語る機会がありました。特に、除草剤については、大学でも研究している教員が非常に少ないという現状があります。当然、除草剤や雑草を学べる学生はごく少数となります。

一方で、国内には、クミアイ化学や北興化学など除草剤を取り扱う上場企業が多数存在します。
除草剤を知る人材の圧倒的不足は、今後、企業活動にも影響してくると思います。人材育成は非常に時間がかかる分野ですが、今、投資しておかないと5年先、10年先には様々な不具合が生じる可能性があります。

これは、新型コロナウイルスに対するワクチン開発で証明されました。
既にワクチンは接種されていますが、ファイザーやモデルナ製品であり、日本企業は後塵を拝しました。

突然変異の雑草が猛威を振るう可能性は無いのかもしれませんが、何が起きるか分からないということも新型コロナウイルスの出現で学んだことなので、除草剤を含む雑草管理を提言できる人材の育成、投資は急務だろうと思います。

後は、実際に雑草をよく観察し、地道に試していくことだろうと思います。
雑草という環境適応能力の高い生き物×土壌×紫外線×作物×温度など様々な要因が関わってくる雑草管理は一筋縄ではいかない分野ですが、とても面白く魅力的な分野だと思います。

半導体や自動車を製造する(製造工程がマニュアル化できる)ようにはいきませんが、1つ1つの事例を見極めていく面白さがあります。

そして、実際の現場を見ながら、考えることに尽きると思います。
たまに大学に顔を出して先生と話をすると、実は雑草以外のことを話していることが多いのですが、物事の本質というか、様々な知見(歴史、文化、政治など)が雑草管理に応用できることがあります。

専門に縛られ過ぎず、広い視点で見渡すことで、雑草との新しい向き合い方が見つかると感じています。本書をきっかけに、多様な人々と連携できれば、きっと未来の雑草管理は面白くなるはずです。

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