雑草学会のシンポジウムで考えたこと

概要

2024年3⽉27⽇に、宇都宮で日本雑草学会の特別シンポジウムが開催されました。
タイトルは、「緑に沈む国、日本。誰が草刈りを担うのかー農村と都市からの報告と未来に向けた提言ー」というものでした。当日のプログラムは以下の通りです。

1)趣旨説明(宇都宮⼤学雑草管理教育研究センター・⼩林 浩幸)
2)那須烏⼭市⼤⽊須地区における雑草管理と地域の再⽣(⾥⼭⼤⽊須を愛する会会⻑・川野邊 眞)
3)中⼭間地域の振興に向けた⾏政の取り組み(那須烏⼭市・深澤 宏志)
休 憩
4)国有地の雑草管理の現状と課題(財務省近畿財務局・平沢 伸喜)
5)国道の雑草管理をいかに省⼒化していくか(国⼟交通省宇都宮国道事務所・⻄村 篤史)
6)合理的な雑草管理を⽀える技術と地域の産業づくり (宇都宮⼤名誉教授・⼩笠原 勝)
総合討論

大まかなまとめ(前半)

当日の講演内容を簡単にまとめてみます。
まず、前半の2では栃木県那須烏山市の大木須(おおぎす)という200人ほどが暮らす地区のことについてのお話でした。また、3では那須烏山市の職員の方から雑草問題について話題提供がありました。

大木須という地域の紹介は、いわゆる「地域おこし・まちづくり」を積極的に行ってきた団体の会長さんでした。
活動は多岐にわたり、ホタルや、国蝶として知られているオオムラサキの保護活動、そば祭りから古民家改修、そして採蜜など様々な活動を行いながら地域に人を呼び込んでいたようです。

採蜜をするためには、ミツバチのエサとなる花が必要なのですが、花を植えようにも雑草が繁茂して大変だったようです。そこで、「企業版ふるさと納税」を活用して、行政に大学(宇都宮大学)と企業(除草剤メーカー)を加えて中山間地に適した雑草管理の試験を開始することになりました。

その結果、除草が進み、花を植えることができたようです。会長さんが後の討論の中で、除草剤に対する周知に関して、「企業の人達が熱心にやってくれていることが分かった」と語っていたことが印象的でした。

一般的に、除草剤を使用する際の課題として、周囲の理解を得ることが非常に難しいのが現状です。それでも、情報を的確に発信していけば、理解者が増えていくようです。

次に、那須烏山市の農政担当課の方が農地の現状に触れました。これは全国共通と思いますが、耕作放棄地は増加傾向で、農家の高齢化が進んでいるようです。それでも、農家の人達は先祖代々の土地を守りたいという意識はあるものの、雑草問題が大きな障壁になっているとのことでした。

雑草が無ければ‥という農地の切実な問題に加え、さらに広大な森林も手つかずという状態だそうです。担当者の方も森林を所有しているようですが、管理の手が全然回らないとのことでした。木の周囲にある雑草を取り除かないと、木の成長が妨げられて、木を有効に活用することができません。

また、現在でも野焼きを行っているようですが、灰が飛散することに対する苦情があったり、火事の危険性があったりと、雑草問題に苦慮していることがよく分かりました。

大まかなまとめ(後半)

後半では、国の雑草管理について話題提供がありました。
およそ雑草とは無縁と思われた財務省ですが、理財局という部署で国有地を管理しているために、雑草が問題になるそうです。空地があれば雑草はセットのようなもなのので、周辺から除草を要望されるとのことでした。

そういう土地は、「不動産」ならぬ「負動産」という状態で、利活用されることもなく管理の経費だけがかかっているようです。便利な土地であれば、売却されたり貸し出されたりするのですが、狭小地や山林は買い手や利用者がいないのが現状のようです。

さらに、最近では相続放棄された土地が国に帰属するようになるなど、これから国有地の雑草問題はさらに大きくなりそうです。

次に、国土交通省の国道を管理する部署の担当の方から、道路の雑草管理について話題提供がありました。国道といっても日本全国にあるので、今回は宇都宮国道事務所の管轄内の取り組みについてでした。

最近は草を機械で刈り取る人に付随して、草や石が周囲に飛び跳ねないように盾のようなものを持った方がセットで活動しているようです。当然、人件費がかかる訳で、限られた予算内で雑草をどう管理するかが課題のようでした。


その中で、除草剤を使用した管理例が紹介されました。除草剤を使用する上で一番の課題は、先にも触れましたが、周辺地域の理解を得ることのようです。一方で、普段から除草剤に触れている農家さんだと案外、理解をしてもらえるとのことでした。除草経費も人力による除草と比べて、およそ半額になったようです。

また、国交省の担当者は数年で異動となることから、作業をマニュアル化することで、後任の方へ引き継ぐ工夫をしているとのことでした。

最後に、宇都宮大学の小笠原名誉教授から、雑草管理を誰が行っているかという那須烏山市・大木須地区の調査事例が紹介されました。それによると、80歳を越えた人達が草刈りを支えているとのことでした。

さらに、自分達の土地以外にも公共施設の周辺、道路、管理者不在となった隣家まで草刈りをしており、1年間で100時間近く草刈りを行っていたとのことです。

一方で、水田内の除草は除草剤を使用しているために、極めて短時間で終了しているようです。そして、除草剤の使用で浮いた時間を地域の草刈りに割いていると指摘されていました。

一般に、人力で草取りを行うと50時間/1反歩とされていますが、除草剤を使用すれば、2時間かからずに終わります。つまり、除草剤によって50ー2=48時間が浮いたことになります。

その上で、除草剤をどう使っていくかが課題のようです。他の方の講演にもあったように、除草剤に対する理解が乏しいのが現状です。また、多くの人が除草剤を「知らない」ために、反対の感情を抱くのではないかと指摘されていました。

同時に、先入観を排除して、「偏らずに物事を捉える」ことの大切さを述べられていました。それは、一般の人々に限らず、大学の教職員などにも当てはまるということでした。

感想

かなり大雑把にまとめましたが、要するに各地で「雑草」に困っているということでした。その一方で、予算も担い手も足りないし、さらに除草剤に対する理解は進まないという八方ふさがりというのが令和6年の現実です。

個々の問題を挙げると、以下のようになります。
農地ならば収量低下(栄養を持っていかれる)、病害虫の発生(雑草が住み家のため)が考えられます。

道路や鉄道であれば視界不良による事故、歩道が歩けなかったり、枯草が火事になるなど交通支障が発生します。また、地方では山と街の境界線が雑草で埋められることで、猪や鹿、熊の被害が拡大するなど、雑草は様々な問題の原因となります。

これだけの問題が起きれば、当然のように管轄している行政や会社に苦情が入ります。
しかし、先に述べたようにお金も人も不足、除草剤も思うように使えないという現状では、どうしようもないということになってしまいます。

人は身銭を切っていること(例えば投資)であれば、自分事として真剣に考えるのですが、雑草問題については他人事と捉えている人が多いような気がします。

今までは、確かに「誰か」が雑草を管理していましたが、少子高齢化で人口減少が続く現状では、「誰か」が居なくなる日はそう遠くありません。

我々は、これから、雑草問題を自分事として捉える必要がありそうです。そして、雑草問題や、除草剤のことを「偏らずに」、よく学んでいく必要がありそうです。雑草問題は、映像にするとあまり画にならない話題かもしれませんが、報道でも積極的に取りあげてもらいたい課題だと思います。

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