雑草のはなし32「ナウシカ的な試み」

大学院のころ

今回はだいぶ前の話、大学院時代の研究テーマについて書いてみます。研究の題目は「雑草を用いたカドミウムのファイトレメディエーションに関する研究」でした。

簡単に説明すると、
①カドミウムという人体に有害な重金属を含む土壌に雑草を栽培
②雑草にカドミウムを吸収させる
③土壌からカドミウムを除去できる
という研究でした。

そこには、風の谷のナウシカ的な要素が含まれています。

ナウシカとの共通点

知っている方が多いと思いますが、「風の谷のナウシカ」について大雑把に補足しておきます。
原作は宮崎駿監督で、映画の公開日は1984年なので、もう27年も前になります。
テレビで定期的に再放送されているので、幅広い年代に知られているかと思います。

ナウシカという主人公が住む世界は、腐海という森に覆われています。
腐海からは有害な菌が放出されているのですが、一方で、腐海の植物は大気の浄化にも関わっていたのでした。
※「植物」と書きましたが、物語的には菌だそうです。ここでは便宜的に植物で捉えておきます。

この腐海の植物の捉え方が、とても興味深いです。
土鬼(ドルク)という国家は、有害な菌を放出する性質に着目して生物兵器にしようとしたのに対して、ナウシカは浄化作用に注目しました。雑草についてもそうなのですが、人間の思惑次第で植物の評価は全く変わってしまいます。

植物の持つ機能をどう活用するか‥そんな発想が研究の土台になっていました。

ファイトレメディエーションとは

研究の題目に入っていた『ファイトレメディエーション』という言葉は‥ファイト(植物)+レメディエーション(修復)の合成語で、植物を活用した環境の修復と捉えてもらえればいいかと思います。

例えば、
①植物の根に重金属などの有害物質を固定する
②植物に吸収させて植物ごと回収する
③植物の根で分解、無毒化する
などがあります。

東日本大震災後に、ヒマワリやカラシナに放射性物質を吸収させようとしたこともその手法の一環です。ただ、残念ながらこの試験は上手くいかなかったようです。

研究の中身

大学院の当時、何をしていたかというと、実験・研究の王道として、まずは基礎的な調査をしていました。それは‥雑草がカドミウムにどの程度まで耐えられるか(カドミウム耐性の調査)という内容でした。

雑草に限らず、カドミウムは植物の成長にとって有害であると言われています。

例えば、植物の成長に必要な鉄の吸収を阻害して鉄欠乏を引き起こしたり、種子の生産量を減少させたりします。現在、ここまで高濃度のカドミウムを含む土壌は限定的なのですが、雑草の能力を調べる意味で調査をしました。

穴の開いていない植木鉢に、カドミウムを添加した土を入れて雑草の種子をまき、雑草がどのように成長するかという実験でした。

穴が開いていると植物に水を与えた際に土中のカドミウムが流れてしまうので、わざわざ穴の無い植木鉢を使用しました。このため、水をやり過ぎるとあふれてしまうために非常に慎重に栽培を行いました。

だいたい、200種近くの雑草を調査しました。
栽培に適した季節はだいたい3月から10月くらいなので、タイミングを逃さないように準備に時間をかけました。土壌に加えたカドミウム濃度も変えたために、全部合わせると1000鉢以上になりました。

栽培が難しい雑草もあったり、実験の精度を高めるために何回か栽培をしたりしたので、この研究だけで2年近く費やしました。夏場は水がすぐに蒸発するために、朝早くに灌水する必要があったり、植物に土日は関係無いので植物優先の日々でした。

そのような研究だったので時折、夢にうなされることもありました。
ともかくも、この結果が1つの論文になりました。

今となっては懐かしい思い出ですが、この栽培特訓が後々まで効いた気がします。
とにかく、膨大な雑草の栽培を経験しました。

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